チャングムⅢ
チャングムの手技法観
第2巻にチャングムの抱いていた手技法についての考えを端的に述べている箇所があります。これも原文を抜書きしましょう。
「・・・しかし妙だな。お前を疑うわけではないが、わしは時々ここの医員を呼んで診てもらっているが、中風だとか言われたことがない。時折首が凝ったと言えば首を揉んでくれて、補薬を処方してくれる程度だ。・・・」
「医術に長けた者でも、それぞれ見立てと処方が違いますから、そんなこともありましょう。ですが、首が凝っても、むやみに揉むことはお勧めできません」
「だが、首を揉めばすっきりするぞ。そのどこがいかんのだ」
「首を揉んですっきりすると、それを繰り返すことになりますが、繰り返していると首の骨を支える筋肉がゆるみ、骨に異常を来す恐れがあります。もしや県令様はうつぶせになって首に指圧をうけましたか?」
「ああ。座って指圧を受けることもあるが、普段はうつぶせだ」
「こちらの医員の悪口を言うわけではありませんが、そのようにして指圧を続ければ大変なことになります。まかり間違えれば、体が動かなくなり、全身が麻痺するかも知れません。指圧は一時の方便に過ぎず、治療が目的ではないのです。首の後ろが凝ったのは、様々な理由で血行が悪くなっているからです。根本から治療すべきです」
「首を揉むのはそんな危険なのか・・・・」
「はい」
「わかった。お前の言うことを聞くから、治療を頼む」
さて、チャングムは官婢の身分に落とされ、地方へ追放されました。ある県令(県知事みたいなものか)との初対面でやはり、その県令の病態(この場合、未病)を見抜くわけです。県令は自分では健康だと思っていたのですが、チャングムの指摘が心当たりあるらしく、聞く耳を持つに至りました。そしてこのような会話が交わされたのです。
まず「指圧」という言葉を使っています。過去ブログでも述べておりますが「指圧」という言葉は大正時代に作られた純然たる日本における造語です。原作者は韓国の人なのですが、韓国でも指圧という言葉が一般化しているのか、この言葉を使ってしまっています(或いは誤訳かも)。
チャングムの時代(16世紀)では適当ではありません。その頃でも使われていた言葉としては「按摩」が正しいのではないでしょうか。
それはさておき、この部分を一読すると、読者に誤解を与えかねないのではないか、と思うわけです。
手技はあたかも、一時しのぎで根本的解決にはならない、ということになっております。
それどころか、続ければ害になるとも・・・
実はこのような手技のことを慰安娯楽の手技として、厳しく指摘しているのが増永静人師なのです。
やたら、症状を攻めるのはよろしくないと。
首が凝ったら首を揉む、肩が凝ったら肩を揉む、このどこがいけないのか?という開き治った反論に対して、増永師は難しい表現でたしなめているのですが、チャングムの論は分かりやすいものでしょう。ただ、この説明だけでは手技そのものも否定しているような印象なので、小生が取り上げる動機となりました。
背景を少し考察してみましょう。
チャングムの時代、燕山君というとんでもない悪王がいて、この王は毎夜、酒池肉林、贅沢の限りを尽くしておりました。
なにを思ったか、宮廷内の医女まで宴会に狩り出し、お酌をさせることを思いついたのです。正式な医学を修めた医女にとってはタマッたものではありません。
現代で言えば白衣コスプレのキャバクラ嬢になったようなものです。
脂ぎったスケベオヤジが宴会の中で身体を触らせるのに絶好の機会ではあるでしょうね。
ヘタに医学を修めているのがアダとなります。ツボどころを知っているのですから、首を揉めだの、肩を揉めだの、腰を揉めだの、無理難題を吹っかけてきたでしょう。
(お返しにワシもお前の身体を揉んでやろう・・ヒヒヒ・・などという不埒な奴もいたに違いありません)
できればそんなところへ出席したくないのでしょうが、国王の命令に逆らうわけにはいきません。
そもそも酒を飲んで身体の触りっこなどしていてはろくなことにならないのは目に見えています。
こうして、医女たちは医学研鑽の時間も奪われ、次第に格が下がっていったわけです。
ですから、医学を修めた者にとって、手技は賤技にも等しくなります。プライドがズタズタです。
この習慣は燕山君の治世が長かったため、朝鮮全土に広まりました。
手技に対するあからさまな偏見はこうして醸成されてきたものと思われます。
とにかく按摩は医者のすることじゃない・・・と。
そういうところへ、明らかな未病を持った高位の者がそれに気づかず、首が凝るので首を揉んでもらっているという事実を知ったとき、その害を説くのは、心情から察してある意味自然なことかも知れません。(チャングムは気骨がありますね)
うつ伏せで首を揉むことに対しての警告
これには全く異論がありません。
うつ伏せの首押圧は危険です。小生もやりません。
首以外でもうつ伏せはあまりやりたくないのです。上半身をうつ伏せで行うのもかなり例外的になってきております(そこには勿論、個別の判断が働きますけど)。
下半身はうつ伏せでないと出来ない技法がありますから、病態によっては行うにためらいはありません。
要するに首と胸郭に負担をかけたくないわけです。特に首はまずい。
ですから、この警告には全面的に賛同します。
指圧は一時的な方便に過ぎず、治療が目的ではないのです・・
(指圧を手技と読み替えてください)
これには賛同しかねます。
一時的な方便というのは(危険であるという論にもつながりますが)、症状だけを攻めるという前提の上に成り立ちます。本当の手技はそうじゃないわけです。
症状だけを攻めるだけでいいのであれば、苦労しません。フル施術などというメニューも作らないでしょうし、勉強も研究もしなくて良いわけです。
(こんな簡単な仕事はないぞ)
凝りを解して、楽になってもらうことは応分において重要な役目ですが、それだけだと揉みクセや、筋硬化&軟化を生み出してしまいます。そのことは施術家なら当然のこととして理解し、あえて口に出すことでもありません。
できれば、患部や症状から遠い部分の操作によって、訴の解消があればそれに越したことはないのです。
増永師の施術法において四肢を重要視する所以です。
また、中枢部(頭、脳)の施術は、基本的に力をこめるということもありません。
一見、症状とはなんの関係もないところへアプローチすること自体が手技の本質なのであって、そのことに注力するから手技法家なのです。
なぜなら、その人のエネルギーブロックを外そうとするわけですから。
そうは言っても、現状はマッサージハウス全盛で、凝っているところがあるから来る、そこを解してくれるから、来るという厳しい現実があるわけです。
これについて小生は考えがあるものの、それを述べたところで改革になるわけでもなく、単なる憎まれ口になってしまいます。
チャングムが警告している通りになるということだけを付記しておきます。
繰り返していると、首の骨を支える筋肉がゆるみ、骨に異常が出る・・・
症状だけをやたら攻めてそれを繰り返していると、ゆるむ場合と硬化する場合があって、そのいずれもが、骨の異常を招きます。
どのような場合にゆるみ、どのような場合に硬化するのか。
数多くのマッサージジャンキーを見てきていますが、大体は硬化しております。
力任せに揉むと硬化します。また指圧系でもツボを外して押し続けるとこれまた硬化していきます。
ツボを捉えて的確に押圧したとしたら、今度はチャングムが言うようにゆるみ過ぎてしまうのです。
共通するものは何かというと、述べたように局部的な施術方法にあります。症状を攻める施術はツボを外してもツボにハメても不都合が出てくるわけです。
押圧や揉みを否定する施術家はおそらくこの現象を見て主張するものと思われます。
硬化している人が多いということは指圧系ではなくマッサージ系の強い施術にかかりすぎたとも言えますし、指圧系なら完全にツボを外している施術にかかり続けたとも言えるわけです。ゆるみ過ぎている人をめったに見かけないのは、ツボにハマッていない施術が多いのだろうと推測できるのですが、チャングムは「ゆるみ」と断言してしておりますね。
してみると、当時は局部的な対症施術であったにせよ、ツボは捉えていたということが言えるような気がしないでもありません。
(作者は現代の人ですが、書くに当たって資料、文献を参考にしたに違いありませんから、昔人のツボを捉える感覚は現代人のそれを上回っていたいう根拠にもなって、面白いなぁと思った一文です)
いずれにしても、症状だけを攻めては害があるということには賛同できます。
何度も述べていますように、手技法家は症状だけを攻めるものではありません。
それにしてもチャングム、誤解を与えるようなことを言っているのはちょっと憎たらしいのですが、可愛いから許せます。(概ね正論ですし)
え?可愛くないと許せないのかって?
そりゃそうですよ。西川史子みたいな女が出てきて言ってごらんなさいや。
なにを言っても許せません。
吉永小百合の若かりし頃に似ているような・・・
いずれにせよ、端正で正統派美人ですね。
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コメント
亜美之介さん、やっとチャングムを見ましたか!と思ったら「本」でね。
なるほど。
Kさんはすごい!
亜美之介を良く知ってるってことですね?
韓国ドラマが巷に氾濫した時、
苦虫をかみつぶしたような顔をしていた我が連れ合いは、チャングムだけは毎週楽しみに
見ていました。
吉永小百合のような美人だから見てたのかしら?
ちなみに彼女、映画「JSA」で将校さん役で出ています。
投稿 チョコ乃 | 2008/05/02 12:11
そうそう、チョコ乃先生にも随分勧められましたよね。そして、一度は観る決意をしたのですが、2回で断念。という、いわくつきの物語でした。
そうでしたか、クッキー先生もファンでしたか。その話はしたことがないなぁ。
女優さん、イ・ヨンエさんでしたっけ。
「JSA]に出てるんだ?
カバーしていない映画なので、観てみようかな?
投稿 亜美之介 | 2008/05/02 15:08
将校ではなく、中立国監督委員会責任捜査官でした。
軍服らしき(?)ものを着てた記憶だったので。
凛とした美しさはチャングムと違うようで
通ずるものがあるようで・・・
ちなみに私は、イ・ビョンホンがおめあてでしたが、当時はやりの韓国ドラマとはちょっと趣が違う、考えさせられる物だった記憶があります。徴兵制、同民族の分断・・・
投稿 チョコ乃 | 2008/05/03 12:58