遠隔操作
(一)
灸の深谷先生は、症状のあるところに取穴するのは「下策中の下策」と述べております。
これは当然、手技にも言えることであって、ツボの醍醐味は一見、症状とは無関係なところで、その症状を寛解せしめることでもあるわけです。
小生、若い頃は肩こりなど感じたこともなく、そういう辛さが分からないでいました。
ところが足揉みを受けたとき、肩や首まで楽になって、(う~む、感じてないだけで、肩こりはやはり小生にもあったのか)と思うと同時に、(足で肩が楽になるんて、なんて凄いんだろう!)と単純に感動した記憶があります。
リフレクソロジーなどはまさに遠隔操作の最たるものでしょう。
まあ、足で身体のあらゆるところへ影響を与えることが面白いと感じる感性をもっている人がこの世界にハマッていくわけですから、リフレクソロジストは遠隔操作に魅せられた人たちだと言えるでしょう。
(流派を問わず、がんばれ!と言いたいですねぇ。そして、もっと勉強せ~よ、とも)
さて、感じてないだけで、肩こりは一応人並みに持っているんだ、と思った小生は、その肩や首を直接揉んだら、もっと楽になるのかな、という素朴な疑問が湧きました。
そして、指圧、マッサージにかかったわけです。
ところが、かえって不快感が増しただけで、足を施術されたときのような爽快感がありません。こういう個人的な経験もあって、やっぱり足揉みが一番だ、と誇りをもってやっておったわけであります。
経験を積むうちに、自分の身体を基準にして考えると、間違いを犯す、ということも分かってきました。今考えれば、当たり前のことですが、個人のよる体質の違い、精神の有り様、様々なわけです。
当然、足だけで肩こりが取れる人もいますし、全然そうならない人もいます。
そうこうしているうちに、指圧師やマッサージ師達と共に働く機会も得ました。
生意気にも雇うときの面接官をやったこともあります。
そうすると、断然、そういう施術を受ける機会が増えてまいります。
機会が増えるにつれ下手な人と上手な人の違いがハッキリ、クッキリ分かってくるわけです。下手な人は症状をやたら攻めようとするのですね。
小生の肩が硬いのが分かると、そこばかり解そうとするわけだ。
段々、耐えられなくなってきます。
(中止させたこともありますもの)
上手な人は文字通り遠隔操作から入って、本丸に近づくという手法を採るわけ。
極上の気持ち良さと術後の楽チン感は格別です。
(な~るほど、ちゃんと工夫してるんだなぁ)と感心しました。
ところが、上手な人ほどこだわりがあって、クイックマッサージの施術を極端に嫌います。
しかし、そのサロンのメニューにある以上、それをこなさなければなりません。
(クイックマッサージが最初に流行った時期です)
15分やそこらで遠隔操作をやってる暇などあるわけがないですよね。
(二)
クイック嫌い・・・
小生も施術者だけにその気持ちは良く分かります。
しかし、会社の方針ですから、自分の判断でそれを撤廃するわけにはいきません。
で、面白い現象が起きてくるんですよ、現場では。
小生が上手だと思っている施術者はクイックに身が入りません。
ところが、下手だと思っていた施術者は症状を攻めるのが使命だと思ってますから、余計なことを考えることもなく、コリを15分間攻め続けます。嬉々としてやるわけだ。
そうすると、クイックの客層というのはそういうのを喜ぶ人も多いですから、上手下手の逆転現象が起きてしまいます。
ホントは逆転してるわけじゃないのですが、時間の制約と施術者のやる気がそういう現象を生み出しているわけです。
施術者自身が(こんなことやってたら、マズイよなぁ)なんて思ってやっているわけですから、そりゃ無理ですよね。
しかし、つくづく思いましたね。
クイックマッサージはクライアントだけじゃなく施術者をダメにするなぁ、と。
遠隔操作するツボの妙所を会得するなど、不可能な話です。
そういうことを分かっていながら、仕事とは言え、それをやらせていたのですから、小生も内心忸怩たる思いをしていたわけです。
しかし、ちゃんと罰が当たるようになっているわけで、後年、小生自身がクイックマッサージならぬ、クイックリフレをやらねばならない羽目になったのです。
(三)
後年、ずっと後年の話ですけが、縁あってクッキー先生と働く機会がありました。
(クッキー先生がある会社の重役だったときの話です)
あるときクッキー先生が命じました。
クイックリフレのコーナーをデパート催事で作るので手伝ってくれ、と。
施術者としてです。
ガーン!(ウソだろ・・そんな、三日前に技術を覚えたような女の子と同じことやるのかよ・・・・)
施術後、足揉みマッサージ器の売り上げに繋がるようなトークをしてくれとも。
足揉みを正業にして以来、そんなことはやったことがありません。
クイックリフレさえもないわけです。
しかし、東京に出て来たばかりの頃、小生が朝飯を抜いていることを知ると、会社に小生の朝飯まで自腹で買って来てくれたり、公私ともに何かと配慮してくれた恩人です。
嫌だと言えるわけがありません。
(これがホントの遠隔操作だ)
「はい、分かりました!」二つ返事ですよ。
さて、やると決めた以上、やる気をなくした状態でやるわけにはいきません。
迷惑かけますし、自分の得にもならない。優秀な施術者がやる気をなくして評判を落としている例も見ていますしね。
(15分かぁ、足って二本あるよなぁ、ということは一本につき7分~8分だぁ)などと当たり前のことを考えてしまいます。
(でも足で良かったなぁ、これが身体のクイックマッサならお手上げだもんな)とちょっと前向きにもなったりして・・・
足は遠隔操作の象徴です。もし、妙所を掴むことができたなら、片足7~8分でも充分過ぎるくらいではあります。
しかし、問題はそれをその時間で掴みきれるかどうか、です。
こうなると、施術自体はリフレから完全に離れなければなりません。
土踏まずにほぼ限定しました。ツボ療法ですよ、ツボ療法。
これしか、道はありません。
幸いなことに経験から、病んでいる人はほぼ土踏まずのどこかにツボが現れることを知っておりましたから、この路線で行くことにしたわけです。
(三)
土踏まずに大体ツボが現れるにしてもそのツボがその人にとって最善のツボかどうかは分かりません。また、フォローが出来ない分、瞑眩が強く出るかも知れません。
でも、どこかで割り切る必要もあるわけで、そういう姿勢で臨みました。
結果からいうと個人的には良かったですねぇ。
様々な経験が出来ました。
中にはホントにツボがドンピシャで、病勢のタイミングもバッチリ合ったのでしょう。
一発改善なんて例もありました。
肩の問題、首の問題、腰の問題が土踏まずで取るツボだけで改善していくのですから、遠隔操作の極致です。これにはこたえられませんでしたねぇ。
(いや~このまま常勤してもいいかなぐらいの感じでね、お調子者なんだな本質的に)
なにせこなす数が多いですから、そういう例も沢山出てくるわけです。
勿論、イメージと違ったのでしょう、小首をかしげ不服そうに帰る人もいました。
(帰ってから瞑眩が出た人も結構いるに違いありません)
ちょっと申し訳なかったのは、リフレじゃなくツボ療法なので、足のマッサージ器の動きとは違う、単純推圧を使ったことです。
器械はローラーですからねぇ。要するにフリクションだ。それとは全く対極にある単純推圧じゃ、説明しづらいですよ。
販売にあまり繋がらなかったかも知れません。
会社には貢献できていないかも、だな。
ゴメンナサイです、クッキー先生。
了
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