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深部脊柱筋(しんぶせきちゅうきん)

 脊柱筋と言えば、脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)が有名ですが、痛みの治療で盲点になるのは、脊柱起立筋よりもむしろ深部脊柱筋の方です。

 深部脊柱筋という名称は総称で、具体的には回旋筋、多裂筋、半棘筋、肋骨挙筋などのの筋肉のことですが、いずれも触診で確認することはできないため、深部脊柱筋で一括します。また徒手療法ではそれでも不都合はありません。

 この深部脊柱筋にトリガーが出来ると、関連痛を他所には送らず、トリガーが出来たその場所が痛むという特徴があります。しかも、その痛み方は脊椎そのもの、つまり骨の痛みとして感じるのです。

 これはヘルニアなどで感じる深部痛と全く区別できないため、たまたまレントゲンにヘルニアが映し出されると、これだ!と鬼の首を取ったように原因を特定されます。そして、不要な手術まで受けるハメになった例は数知れず・・・
 なんのことはない、筋筋膜が痛みの根源であったという笑えない話。

 しかし、この深部脊柱筋の処理は思うほど簡単ではありません。
 うつ伏せで行う押圧であれば、この筋肉に届くものの、骨まで前方に押し出すことになてしまいます。これが腰椎ですと、骨の変位が増悪し、症状をかえって悪化させること度々。
 これについては増永師が再三に渡って、著作の中で警告しているにもかかわらず、未だ一部業者の間で普通に行われているのは、全く解せない話なのですが、手技法界全体にかかわらる信用の問題のため傍観できる限度を超える寸前でしょうね。

 故に押圧はよろしくない!という極端な理論が出てくるわけでして、確かにうつ伏せで腰を押すくらいでしたら、揺らしたほうが余程良い効果を得られます。少なくとも増悪させません。

 しかし私は、この深部脊柱筋のトリガーを沈静化するには押圧がもっとも効果的であると経験的に知っていたため、骨の変位を招くデメリットを最小限に食い止め、トリガーを消し去る方法論を模索してきたわけです。
 五年ほど前くらいから、横向きでの脊柱押圧は椎骨の変位を招かず、筋筋膜のトリガーのみに影響を与えることを実感して、それを実行しておりました。しかし、この方法はかなり難しい。不安定さを微塵も感じさせず、深部脊柱筋に届き、それでいて、腰椎の変位を招かない方法になるのですから当然です。絶妙のバランス感覚が必要かもしれません。

 しかし、ひとたび、このコツを覚えれば、原発性の深部脊柱筋由来の腰痛には圧倒的な強みを得ることになります。

 実は腰痛の問題は、深部脊柱筋の問題でなければ臀部筋か、腹部の問題か、あるいは腸腰筋の問題に過ぎません。本当にヘルニア等、徒手療法の手に負えないケースは全体の10%くらいでしかないのです。
(そっくり経絡に置き換えて説明することも可能なのですが、煩雑になるため、筋系で通します)

 このことに気づいて、技術を練磨してきた施術家はそれなりのリスペクトを受けて活躍しているのはご承知の通りですが、単なるほぐし整体との違いは知識のみであって、技術的な違いはわずかでしかありません。

 開業する人は当然、技術に自信があっての開業でしょうが、技術というのはそれを使うべきフィールドを理解するという知識によって生かされるわけで、ほぐすのが上手いというだけなら、それ自体の価値はかなり限定的であると申せましょう。施術というのはどこをどの程度どこまでやれば、こうなる!という仮説の下に行われるわけでして、その仮説力は知識力の別名であって、経験もまた経験則という知識に他なりません。

 話が逸れていきました。元に戻しましょう。

 深部脊柱筋由来の腰痛や背中の痛みは驚くほど多く、そしてその有効な対応技法は驚くほど少ないのが現状です。それは一重に深部脊柱筋への認識不足が招いている事態なのです。

 ひと度、深部脊柱筋という概念と、そこに問題の所在があるかもしれないという予測が立てられたなら、方法論はいくらでも思いつくはずですから、技術というのは、やはり思想から派生し、作られるものだということが再認識されます。

 手術が必要なほど骨が変位し、これ以上ないというくらいのヘルニアがレントゲンで確認できるのに、当の本人は痛くも痒くもなく、平気でテニスをやっている・・・他方、レントゲン等では全く異常がなく、これで痛みが出るのはおかしいという程の人が車椅子が必要なほどの腰痛持ちであったりする・・・この事実を前にして、腰痛とは骨の変位が原因ではなく、怒りという精神的な感情の現れであると、断定した整形外科医がいました。

 あまりにも有名な「腰痛は怒り」説です。医学的には相手にされていませんが、今も信奉者が数多い説ではあります。

 実際あり得ると思いますし、そのような症例に出くわしたこともありますが、深部脊柱筋トリガーの概念を導入したほうがはるかに当てはまる例が多く、説明がつきやすいものです。

 しかし西洋医学の世界では、この説は「怒り」説と同じくらい受け入れ難いものですから、認知されることはまずないでしょう。
 しばし、整体師の独壇場になるわけですが、これを喜んでいいものなのか、悲しむべきことなのか・・・複雑な心境ではありますね。

 激しいスポーツをかなり熱心にされていた方などがこの深部脊柱筋由来の痛みに苛まれるケースが多いものです。
 一つ一つの筋肉が小さいため、急激な身体の使い方(捻りの動作など)で傷めやすいからなのですが、転倒や事故の後遺症でも痛めます。

 スキーの元選手が原因不明の背骨痛(首も背中も腰も)に悩んでおりました。どこに行っても良くならないと嘆いていたのですが、この方、典型的な深部脊柱筋由来の症状でしたので、それに気がつかない施術院では治らないだろうなぁ、と思ったものです。
スキーで激しく転倒したことが何度もあるとのことで、深部脊柱筋に障害が出てもおかしくありません。(スキーでの転倒は後遺症が残りやすい)

 痛みのためにQOLが著しく損なわれるわけですから、こういう人々こそ楽にしてあげるのが使命です。

 いずれにせよ、肉体的苦痛に悩んでいる人を一人でも多く救うためにこの業界に入ったわけですから、深部脊柱筋トリガーの概念と処理技法を自家籠薬のものとするに如くはないでしょう。

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